こんにちは。竹俣です。久しぶりの投稿になってしまったブログ。
5月に制作したL型特注キッチンをご紹介させていただきます。

市内の地引建設さんから「L型の特注キッチンを提案してほしい」とのご依頼をいただき
デザインから設計、制作、設置までをいたしました。
施主様は、お母様との同居をきっかけに今お住まいのマンションをリノベーションされるとの事。
川沿いに建つマンションの5階で、抜けた景色と風通しが気持ち良いところでした。
リノベーションの内容は主にキッチンとリビング。
床には無垢のサワラ材を貼り、天井と壁は自然素材の布クロスを使用。
キッチンも可能な限り温もりある素材と仕上げを選び、落ち着いた空間にしたい。
メーカーのショールームにもかなり足を運んだそうですが、納得するものを見つけることができず
地引さんが竹俣に声を掛けてくださいました。こういう案件、かなり燃えますね笑。

まずはじめに提案させていただいたのが「木のキッチンをつくりませんか」でした。
木に包まれた空間に合う、自分だけの木のキッチンを。
昨今のキッチン家電、料理道具は多機能とハイスペック化が進んでいる。カラフルな色が揃い選択肢の幅は広がっていると言えるかもしれない。
こうした現状を喜ぶ人もいるかもしれないが、一方で喜ばない人の選択肢が少ないことに気づきました。
本当に必要な機能は何か。気持ち良いとはどういうことか。
特注でキッチンを作るなら機能の足し算ではなく、引き算をしていこうと。
そこで話し合いのもと譲れない点は下記の通りに絞られました。

①道具を少なくしたい 
②場所を有効に使いたい
③メンテナンスを簡単にしたい
④日々綺麗に使いたい

技術の進歩は素材、加工法、形状、機能を実現し、新しい状況や時間を生み出します。
出来なかったことが出来るようになり、時間の掛かっていたものが早く簡単に出来るようになる。
便利で嬉しいことであります。一方でこの機能を使うためにはこの鍋が必要で、
この道具を使うためにはこのパーツが必要で、メンテナンスするにはこの専用の液体が必要で、
この道具を使うためにはこの道具を置く場所と保管する場所が必要でなど。
あるとき「道具と場所が増えてる」ことに気づきました。人によってそれは不便なこと。

次にハイスペックな物は壊れたときのメンテナンスが難しい。
業者に頼めば良いけれど、キッチンは毎日のことなので今直さないと困るときもある。
原因が突き詰められるよう、なるべくシンプルな構造がよい。

又気になる汚れについて。
汚れにくい素材はいろいろあります。天板で言えば人造(人工)大理石、メラミン、ステンレス、
セラミック、天然石、タイル又ガラスコートといった仕上げも然り。
火元周辺は建築基準法で定められた制限のもと多角的にデザインと設計を考えていくわけですが
それ以外の箇所は、使い側の「心地良さ」を尊重し、「扱い方」の創造性を伸ばす方法もあるのではと思った次第です。
「素材」にはそれぞれ特性があり扱い方も異なる。新素材の汚れが付着しにくく掃除しやすい表面硬化の高いものは確かに助かります。
耐水、耐熱性も高い。一方硬いため物を置いたときの音は「カンッ」と甲高く触感も印象も冷たい。
重いものをのせると割れることだってゼロではない。その場合は買い替える。
どちらもメリットデメリットはあります。
汚れに関し施主様が出した答えは「毎回掃除すれば何でもいいじゃないか」でした。
器が好きな人は、ガラス、陶器、磁器、漆器、木皿、真鍮といった色々な素材の器をもっている。
作家ものから名も無き職人のもの。実用的なシンプルなものから海外のプロダクトもの。
老舗メーカーのもの。器に応じ扱いは異なる。木皿や木が素地の塗り物や薄い磁器やガラスは食洗機に入れないし
赤絵や金の加飾などは電子レンジに入れない。エッジの効いた形状のものや繊細なものは丁寧に手洗いするし
割れないよう大切に扱う。落としても割れない器を使うなら雑に扱ってもよいかもしれないが、
大事な器を使うなら、ある意味当たり前のことかもしれません。
それは料理をする「場」においても同じこと。「楽をする」より「大切に使う」ことを施主様は優先されました。

天板にはナラの無垢材を使い、そのかわり凹凸をなくし清掃しやすいデザインとしました。
Img_f04ea950d998325e6be613e77dedf851
リビング側からみたキッチン。前板と側板はラワンベニヤを3パターンの幅で裂き、目を通して貼った。
Img_01accb03b6c3683be175c8d22d3faf22
容量たっぷりの収納は可動式の棚。中は白のポリ板。
Img_5584f076b52b571935643cd84532a427
サイズは全体で1900×1800のL型。シンク面の天板奥行きは1000。コンロ面奥行きは650。高さは850。右部の収納棚は調味料や器を。
Img_a59ee79ef3c7da36285f1da467342bd8
天板から少し奥まった位置にある扉と手掛け。椅子に座った際膝が気にならず且つ扉を開けて中の物も十分取れる間の寸法をとった。
Img_590902d496e1461111e6cf009ca4313d
光の反射で分かりにくいが無垢ナラ材の天板。着色し水性ウレタンを刷毛塗りで仕上げた。刷毛塗りは刷毛目跡が好きです。メンテナンスも水性なので室内に臭いが充満することなく塗替可能。
Img_5a86b14a7ae2240a5344bc142a6e2dfc
床は無垢サワラ材をオイル(バニラ色)でフィニッシュ。サワラ無垢は素足でも実に体感温度が気持ちよい。
Img_6ab218321c2aea2705706d6150faa1e3
作業面から。シンク下はオープン。ゴミ箱を置く。後日お母様が椅子に座って作業ができると喜んでくださった。なるほど!
Img_5a0f15bd6847bbaf13106345adc97dcd
L部はご希望でスライドレールの引出。最上部は2段にしてカトラリーや箸など低い内箱を用意。
Img_d26fb3eca6f455208af310ef21142afe
ガスコンロはリンナイのデリシア650幅3個口。コンロ周辺天板はステンレス。左置き家具は炊飯器、レンジ、ポット、お米、飲み物など大きいものを収納。間に小さな引出も。
Img_de7549887e3e2f2b790afb583f9f47ee
直接手の触れる引出、扉の手掛けはナラを黒拭き漆であっさり仕上げた。手の脂がついてきっといい艶に変化するでしょう。
Img_a12dd4ee190dcd5e6214a42cd86153ad
シンクは特注でステンレス製2槽のオーバータイプを作った。仕上げは真上の照明の光を反射せず馴染ませてくれるバイブレーション仕上げ。
Img_3a2546580fb28037c5c3010da5da4b2d
シンクの上にのせて使うまな板もヒバ材で制作。水で毛羽立たないよう全てカンナ仕上げ。水が奥に流れるようカンナで傾斜をつけた。水をマックス出してもごらんの通りバッチリ奥に流れてくれた。
Img_0dbe8fb9d408b0a9426db8de6d8e177b
洗剤やスポンジなど置けるポケット付き。
Img_45e2dbae32170c7d3e3357d315e08bce
レンジフードはそのままマットな黒シートを張り替えたのみ。上の吊り戸も前板のみ交換。印象が随分変わりました。窓の開口部に合わせて作った収納棚。ここから射し込む光のおかげでキッチンが実に明るく且つ風通し良くなった。
Img_e60276ce5923d9d101f58149887493fa
リビング側に椅子を置きダイニングテーブルや家具のようにお使いいただいている。
調理に使う食材は野菜も米も魚も肉も、又それらを育む環境もすべて命。
料理が盛られる器も同様、キッチン(調理場、台所)もそれらが通じ合う自然素材がやはり一番馴染むと思うのです。
木の上に物を置いたときのあのやさしい音は、他素材とは一線を画します。
木に直接手が触れたときのあの温度や質感も、多素材とは一線を画します。
「手掛け」は触りたくなる造形と経年変化になるよう心掛けました。

完成後、施主様はキッチンが落ち着きすぎて、ほとんどの時間ここにいるそうです。
食事をしたり本を読んだりPCで調べものをしたり仕事をしたり、時には寝てしまったり笑。
普段は医療系の工学技士としてハイスペックな環境でお仕事される施主様が
「暮しへの考え方がかわりました」とおっしゃってくださり感無量。
木のキッチン。やはりいいもんですね。